「血」(けつ)と呼びます。血とは、脈中(血管)を流れる赤い液体で、からだを栄養し、潤いをあたえるものです。血は食物や腎精(じんせい)からつくられます。
血そのもの自体は、西洋医学でいう血液とほぼ同じと考えてもらってよいと思います。しかし、その血の働きや生成については中医学独特の考え方があります。
「血」の働きは次の2つです。
1.「全身を栄養し、滋潤する物質である」
2.「精神活動を支える物質である」
[1]全身を栄養滋潤する
この働きは西洋医学の血液と同様に、血は血管を通して体のすみずみまで行き渡り、内臓・筋肉・皮膚・骨などを滋養する働きです。
血液が不足すると、からだを栄養できないだけでなく、からだの潤いも失います。例えば、皮膚がカサカサ乾燥する・目がしょぼしょぼして疲れる、ドライアイ・髪の艶がなく切れ毛が多い・爪が割れやすいなどは、血が不足しているときによくみられます。このほか、顔色が白い、あるいはくすんだ黄色がかっている・頭痛・めまい・立ちくらみ・不眠・手足のしびれ・生理が遅れるなども血の不足での症状です。
[2]精神活動を支える
血には「安心」の働きがあると考えます。
人の思考や精神活動というと、頭で考える、つまり脳で考えることです。良い考えが出ないと、頭を指さされて「血の巡りが悪いんじゃない?」とからかわれることがあるように、頭が良く働きしっかり考えるためには脳に充分な血液が流れていることが大切です。
そして精神とは頭で考えることでなく、「こころ」で想うことです。中医学では、「心」(しん)が思考や精神活動の中心であると考えます。楽しいことの前には胸がワクワク、緊張で心臓がドキドキ、恋をすれば胸がキュンとするように胸を中心に変化が現れます。こうしたことから精神は心に宿り、心の血と気によって養われて活動すると考えられています。
血液は、心臓から循環して全身を栄養すると同時に、心臓自身も養って精神を安定させることから*「安心」の働きがあると考えます。こころの冷たい人に「血も涙もない」、「冷血動物」といった言い方があるように、正常な精神活動のためには、充分な血液が必要になります。もし、過労や心配事で心の血が不足すると、不安感・動悸・寝つきが悪い、眠りが浅いなど症状が現れます。*漢方の言葉では、「安神」(あんじん)といいます。
病因となる血の失調は
1.血が不足する「血虚」(けっきょ)
2.血の循環が悪く、滞った状態の「瘀血」(おけつ)があります。
ところで、血虚は血液不足タイプとはいえ、西洋医学の貧血とは少し意味が違います。病院での検査での貧血とは、「赤血球」の量の低下や組成に関わることです。これに対して中医学の血は、赤血球・白血球・血小板などすべて含めた「血液全体」を意味します。そして血虚は血液全体としての量の不足や働きの低下を意味します。病院で貧血と診断された方をはじめ、貧血と診断されていない方でも、中医学で診断すると血虚としての血液不足の症状がみられる方は実際に多くおられます。上にあげたような血液不足での症状の多くが思い当たる方は、血虚の体質の可能性が高いといえます。