日本の漢方は、もとは奈良時代に中国の伝統医学が伝わったものです。伝えられた当時は中国と同じものだったと考えられますが、その後日本の鎖国もあり、中国との医学交流がなくなったため、それまで中国から伝えられた理論を、日本独自の考えにより日本国内で発展してきたものが日本漢方です。
一方中国では、自国の伝統医学を更に発展させて現在の中医学に至っています。つまり、中国の伝統医学は日本と中国それぞれの国において、独自の展開をみせて伝わったために、両者は考え方に若干の違いを生じています。ですから、日本漢方と中医学はともに、もとは中国伝統医学を指すものの、別の医学体系であるといえます。混同を避けるために、中医学は「中国漢方」ともいわれます。
中医学と日本の漢方の大きな違いは、中医学では、陰陽五行学説・気血津液学説・五臓六腑を中心とした臓腑学説などの理論を用いて病気の本質・個人の体質を見定めていくのに対し、日本の漢方は、症状から直接処方を考えていくのが特徴です。このため中医学はどちらかというと理論的で、対処的に病気を治すということだけでなく、再発を防ぐ体質改善や病気の予防をしたり、健康で長生きをするための養生法なども重要視しています。
現在の中国では、中医学専門の医科大学を卒業した「中医師」(ちゅういし)といわれるお医者さんがたくさんいます。中医学専門の病院もあります。中医学の長い歴史だけでなく、現在においても中医学に関わる層の厚さ・教育制度・医療環境などもあわせて考えると、日本の漢方にも優れた点はありますが、やはり中国が漢方の本場であるといえるでしょう。